認知症vol.4
認知症の症状って、どんなもの?
認知症の症状は、中核症状とBPSD(行動・心理症状)に分けられる
脳の細胞が壊れることで、その脳の細胞が担っていた役割が失われることで起こる症状を「中核症状」と言います。一方、中核症状によって引き起こされる症状を「行動・心理症状」と言い、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と略されることもあります。さらには、「周辺症状」と呼ばれることもあります。
脳の働きが低下することによって起こる「記憶障害」「見当識障害」「理解・判断力の低下」「実行機能障害」「失語」「失行」などの障害を中核症状と言い、中核症状が本人の性格や環境などに影響して現れる、「興奮」「徘徊」「抑うつ」「幻覚」「意欲の低下」などを周辺症状と言います。
《例》
中核症状「認知症が発症して、トイレの場所が分からなくなることが見えてきた」
周辺症状「トイレを探すために家の中を歩き回ったり、外に出ようとするようになった」
行動や心理状態には「中核症状と本人の習慣や環境に起因する理由」があり、その理由を理解して、適切な対応ができると、穏やかな生活が可能となります。反対に理解されない状況に置かれると、行動・心理症状がより悪化することにもつながります。
中核症状をもっと詳しく
記憶障害
新しいことを覚えられなくなり、さっき聞いたことを記憶することが難しくなっていきます。だんだん覚えていたことも忘れるようになっていきますが、子どものころの記憶や、子育てしているときの記憶など、昔の出来事は比較的、覚えていることが多いです。
《例》
スケジュール管理が難しくなる
「デイサービスに行く日時を忘れてしまう」
記憶があいまいになる
「人の顔と名前が一致しない」
見当識障害
今がいつで、ここがどこか?という、自分が今、置かれている状況を認識できることを「見当識」と言います。見当識が障害されると、今が何時なのかが分からなくなったり、道に迷うことが見られてくるようになったりします。また、自分と周りの人間との関係性の把握も見当識に含まれ、自分の息子を『お父さん』と呼ぶことや、亡くなった人を探すなどの行動が見らます。
理解・判断力の低下
物事を理解したり、情報を処理する能力が低下して、一度に2つ以上のことを言われると、理解することが難しくなります。また、機器の使用方法が分かりづらくなり、どうすれば良いのかがわからなくなります。あいまいな表現も理解しにくくなり、具体的な表現や声掛けが必要になります。
実行機能障害
物事を行う時に計画を立てたり、順序立てて行うことが難しくなります。今までは、メニューを考えたり、ご飯を炊く用意をしてから、おかずに取り掛かるなど、同時に進めていくことができましたが、実行機能障害を伴うと、「ジャガイモを切る」、「炊飯器のスイッチを押す」といった単純作業はできても、それを組み合わせて実行することが難しくなります。
失語(言語障害)
言葉を理解したり、言い表したりすることが難しくなります。相手が話す言葉を、音として聞こえていても、話としては理解できず、思っていることを言葉で表現する、伝わるように話すことが難しくなります。
失行・失認
失行は、「箸を持つ」、「ボタンをとめる」など日常的に行っていた動作が行えなくなることを言います。失認は、目の前にあるものを認識することが難しくなることです。特に、自分の身体の半分の空間が認識できず、「置かれた茶碗が見えない」、「服の袖を通し忘れる」などが見られることを「半側空間無視(失認)」と呼びます。
BPSD(行動・心理症状)とは?
認知症介護は、このBPSDが現れることで、より一層大変さが増してきます。BPSDを理解して対応策を知っておくことで、介護者の心理的、身体的疲労が緩和しやすくなります。
興奮
認知症によって前頭葉がダメージを受けると、感情のコントロールが難しくなってしまいます。それにより、思うようにならなかったり、理解できないときは、興奮して過度に攻撃的になったり、暴言や暴力に変わっていくこともあります。さらに、介護者も感情的になってしまうと、さらに状況を悪化させてしまうことになるため、傾聴の姿勢でのぞみ、話しを受け入れることが大切です。それでも難しいときは、距離を置いたり、しばらく時間をおいてから話しかけることで、落ち着きを取り戻すことがあります。
徘徊
見当識障害や記憶障害などの中核症状による影響や、不安などにより、辺りを歩き回る「徘徊」が起こることがあります。客観的には不可解な行動のようにも見えますが、本人にとっては、はっきりとした目的がある場合が多い。例えば、バスで帰ってくる子どもをバス停まで迎えにいっていた記憶が呼び起こされて、夕方になると「迎えに行ってくる」と言って家を出ようとしたり、何かソワソワすることも考えられます。徘徊がみられた場合は、落ち着いて声をかけることや、無理に行動を抑えず、一緒に歩くなどが大切となります。
抑うつ
認知症になると、日常生活に支障が出てくるようになり、だんだんとできないことが増えてきます。できない自分に嫌気がさして、気分が落ち込む状態が見られることがあります。そんなときは、不安をあおるような言動はしないようにすることが大切です。今までは、趣味や外出を楽しむ生活をしていたのに、引きこもりや無関心になることが多い。
幻覚
「虫がいる」や「子どもがいる」など、実際には見えないものが「見える」幻視のほか、聞こえるはずのない声や音が聞こえる「幻聴」などがあります。本人にとっては現実であるため、否定はせず、話を受け入れて安心させることが大切です。幻覚として見えていると思われる存在がある場所に一緒に行き、確認するのもひとつの方法です。
「意欲の低下」
認知症になると、身の回りのことのやる気を失ってしまい、無気力で何もする気が起きなくなることがあります。これまでの習慣だったリズムが乱れ、「面倒くさい」といった発言が目立つようになり、家に閉じこもったりします。そんなときは、できるだけ規則正しい生活を送るように心がけ、デイサービスの利用などで外出の機会を設けるのもひとつの方法です。
「夜間せん妄」
意識障害が起こって混乱した状態になることを「せん妄」と呼びます。時間や場所がわからなくなる場合や、落ち着かなくなる場合など、人によって異なる症状が現れます。このせん妄状態が夕方から夜間にかけて起こるのが「夜間せん妄」です。辺りが暗くなると、不安感や恐怖感がつのり、混乱しやすくなります。部屋を明るくしたり、そばに居て話を聞いてあげるなどで、安心してもらうことが大切です。
「睡眠障害」
睡眠障害には、なかなか寝つけない「入眠障害」と、途中に目が覚める「中途覚醒」、まだ暗いうちから目が覚める「早朝覚醒」などがあります。これは「体内時計」の機能が低下して、生活リズムが崩れていることで起こるので、大事なのは、昼間の活動量を増やして、規則正しい生活サイクルに戻すことです。昼夜逆転などの状態が長く続いて、本人が辛くなるようなら、医師に相談することも大切です。
おわりに
「自分が生きていることには意味がある」といった感覚をもてることを「自己肯定感」と呼びます。認知症になると、今までの自分では理解できないことが起き、不安でいっぱいの中で暮らしていくことになります。その不安が元となり、混乱や恐怖につながり、興奮といったBPSDが引き起こされていきます。認知症の人との関りにおいては「自分は価値ある人間なのだ」と、自信をもってもらうことが大切で、本人がそう感じられるように、周りの人は接する必要があります。