認知症vol.3
4大認知症の基本を押さえましょう
認知症ケアを適切に行うためには、認知症を正しく知ることが必要です。認知症の中でも、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は4大認知症と呼ばれ、ココを押さえておくと本人にも介助者にも優しいケアができていきます。今回は、この「4大認知症」について、それぞれの特徴を説明していきます。
アルツハイマー型認知症
認知症全体のうち、6割以上を占める代表的な認知症です。
《原因》
脳の中にアミロイドβやタウタンパクという特殊なタンパク質が蓄積して、神経細胞にダメージを与えることで引き起こされます。
《障害部位》
記憶を司る海馬から萎縮が始まり、ゆっくりと脳全体に広がっていきます。
《主な症状》
昨日の出来事を忘れる、何度も同じことを聞くといった「記憶障害」や、今日の日付や季節が分からない、トイレの場所が分からなくなる「見当識障害」、服を着ることや箸を持つことなど出来ていたことが難しくなってくる「実行機能障害」が見られ、日常生活に支障がでてきます。
《経過》
なだらかに徐々に進行していき、やがて身体機能が低下してくると、日常生活のほとんどに介助を要するようになっていきます。
《ケアのポイント》
1.安心してもらう
物忘れや記憶が薄れていくことで不安や焦りがでてきます。周囲の人が事実を伝えても、本人には記憶障害の自覚はなく、なかなか受け入れることができません。反対に周囲の人が、本人の言動を訂正すればするほど、本人の不安は高まり、逆効果となります。 まずは、本人の言葉、気持ちを受け止めてあげてください。笑顔で寄り添う姿勢が、安心をもたらせます。
2.覚えやすい方法を取り入れる
一つずつ、繰り返し反復して覚えることが大切です。それと、言葉だけでなくイラストや文字などのメモを貼るなど、本人と相談しながら覚えやすい方法を取り入れてみてください。
血管性認知症
脳梗塞などの脳血管障害によって引き起こされる認知症です。
《原因》
脳の血管に酸素や栄養が行きわたらなくなる脳血管の障害によって引き起こされる認知症です。脳梗塞や脳出血などの治療が終わったあとのタイミングで、もの忘れなどの症状が現れてきます。
《障害部位》
梗塞や出血を起こした部位の脳細胞が死滅して生じてきます。
《主な症状》
脳が障害を受けた部位によって症状が異なります。症状には波があり、できることと、できないことの差が大きく表れ、1日のなかでも、意識がはっきしているときとそうでないときがあります。これは「まだら認知症」とも呼ばれ、本人にも分かることと分からないことに自覚があるため、抑うつ状態や投げやりな気持ちになり、感情のコントロールも難しくなってきます。
《経過》
脳梗塞の発作が起こるたびに症状が強くなっていき、階段状に進行していきます。
《ケアのポイント》
できることと、できないことの内、「できないことだけ介助する」という姿勢が大切です。
できることはやってもらうことで、残っている機能をいつまでも使っていくことや、自信を持ってもらうことが進行を防ぐケアのポイントです。
時間帯によって、できなことがあると、1日の中でも介助を要する時間を変えていく必要があります。また、脳血管疾患は再発したり悪化することもあるので、毎日の血圧測定など日常の中でのちょっとした変化を見逃さないこともポイントです。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型認知症に次いで、2番目に多い認知症です。
《原因》
脳に「レビー小体」と呼ばれる特殊なタンパク質が蓄積することで、運動機能や認知機能に障害を受けることで生じる認知症です。
《障害部位》
後頭葉の萎縮から始まり、やがて脳全体に広がっていきます。
《主な症状》
代表的な特徴として、誰もいないところに「子どもがいる」「虫が飛んでる」などの幻視が現れます。また、手が震えたり、動作が緩慢になるなどのパーキンソン症状も見られてきます。パーキンソン病では脳幹にレビー小体が蓄積しますが、レビー小体型認知症では、脳全体に蓄積するという違いがあります。比較的、男性に多いことも特徴の一つです。
《経過》
急速に進行することもありますが、徐々に進行していきます。初期には、幻視が現れて、さらにはパーキンソン症状も見られます。また、ごく親しい家族の顔を他人と間違える人物誤認もみられます。中期になると、認知機能障害がさらに進行し、もの忘れや見当識の障害が目立つようになります。この頃になると、被害妄想を生み、パーキンソン症状も悪化し転倒のリスクが高まります。コミュニケーションをとることが難しくなり、全身の硬直や歩行障害が強くなってきます。嚥下機能が障害され、食べもの飲み物の摂取が難しくなり、誤嚥性肺炎を繰り返すようになります。末期には、全身が衰弱してきて、寝たきり状態となります。
《ケアのポイント》
- 転倒予防
身体の動きがぎくしゃくしてきて、前かがみのような姿勢になります。一旦歩き出すと、突進するような動きになり、転倒することもあります。最も効果的な転倒予防のひとつはリハビリです。ただ、リハビリと言っても、トレーニングマシーンを使ったような大げさなリハビリでなくても、日頃から、体を動かす習慣を付けておくだけでも身体機能を維持しやすくなります。洗濯や掃除などの家事の役割を担ってもらうのも、効果的なリハビリです。
- 幻視
「人がいる」「虫が這っている」などの幻視では、本人を否定するような言動は控えましょう。話を合わせる共感の姿勢が大切となります。また、症状が進行していくようであれば、本人が納得の上、医師とも相談して薬で症状を抑えることもひとつの方法です。いずれにしても、気持ちに寄り添う姿勢をもちたいものです。
- 妄想
「誰かが財布を盗んだ」などの妄想でも、幻視の時と同様に、まずは共感の言葉をかけましょう。話を受け入れてもらえると、本人も納得し、落ち着きを見せるようになります。その後、「一緒に探してみましょうか」と誘い、財布を探してみるもの効果的です。このとき、先に財布を見つけたら、そっと目に付くところに置いて、あたかも本人が見つけたようにすることがポイントです。
前頭側頭型認知症
四大認知症で唯一、難病指定を受けている認知症です。
《原因》
実は、はっきりとした原因は分かっていないのが大きな特徴です。
《障害部位》
前頭葉や側頭葉の萎縮によって起きます。
《主な症状》
自分の思いが先に立ち、社会のルールを守るのが苦手になります。「欲しい」と思ったものはお金を払わず持ってきてしまったり、他者への配慮も難しくなります。また、決まった時間に決まった行動をする常同行動や、本人のこだわりが強くみられることがあります。
《経過》
発症初期は人格が変わったり、行動の異常が目立ち、少しずつ進行していきます。反対に、無気力や無関心の症状が強くなることもあります。また身体機能の低下により、誤嚥を繰り返したり、呼吸器の筋肉が麻痺して、寿命に影響を与えることに繋がります。
《ケアのポイント》
- 同じ時間に、同じ行動をする「常同行動」
こだわりを尊重したスケジュールを立てることで、落ち着いた生活を送れるようになります。毎日のルーチーンを意識したスケジュールを立てることも効果的です。穏やかな日常生活の継続に配慮していきましょう。
- 社会性の逸脱
周囲の人にあらかじめ説明や声かけをしておき、そんな行動が見られたら、家に知らせてもらったり、よく行くお店には、きちんと料金の支払いをさせていただくことを相談しておくと安心できます。
おわりに
このように「認知症」と言っても、さまざまな原因、症状があります。その特徴やケアのポイントを押さえることで、本人にも介助者にも安心した暮らしに繋がります。認知症を正しく知って、適切なケアをしていくことをが大切です。